川上高司 中央大学法学部講師
岸田政権は、ウクライナ支援強化の2国間文書に署名する。その有効期間は「10年間」。
内容は、ロシアから新たな侵略にあった場合、24時間以内に2国間協議の実施を明記。他、日本はウクライナ侵略以降の支援額は総額約121億ドル(約1兆9000億円)を投じる予定だという。岸田総理は憲法上の制約も踏まえ、「日本ならではの貢献」といい、ウクライナの財政支援や復旧・復興に向けた経済協力など非軍事分野に力を入れると述べる。
しかしながら、この件は、国会で真剣に論議されているのか。二つの面で非常に重要事項である。
第一に、ウクライナ支援継続は、「ロシアを今後10年間、敵に回し続ける」ということになる。ロシアは日本の隣国であり、ウクライナ支援を継続すれば今後ともロシアの脅威を受けることになる。台湾では中国から、朝鮮半島では北朝鮮から、そして北方領土や北海道はロシアからの三正面の脅威への対処は日本は可能であるのか?
第二に、1兆9000億円にものぼるウクライナへの財政支援自体が日本の国益にとってどれほどの重要性があるのかを国民に説明していない。岸田総理は国会でウクライナ支援がそれほどまでに重要であるという説明責任を果たしていないのではないか。また、国会でもウクライナ支援が今後10年間行うことにどれほどのリスクがあるのか。また、ウクライナ復興支援がどれほど意味のあることなのかを国民のために十分に論議してほしい。
しかも、予定されるウクライナの2国間文書では、ロシアによる新たな侵略行為があった場合、いずれかの国の要請に基づき、迅速な支援を行うために24時間以内に2国間協議を行うことを盛り込む。インテリジェンスを巡る連携を深め、安全保障に関する機密情報の交換を可能とする「情報保護協定」の締結に向けた交渉加速も明記するならば、日本は米国と肩を並べ(shoulder to shoulder)ロシアと戦うことになる。そこまでの決意をしたのであれば国民への説明はせねばならない。岸田総理は国内国民の支持率低下を外交力でおぎなおうとしているのはわかる。また、外交当局者の意気込みは理解できるが、日本の国家戦略の大転換にまた一歩踏み込むのである。
岸田総理は、6月13日にイタリアで開幕するG7(先進7か国首脳会議)に合わせ、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領と会談し、合意する方向で最終調整している。G7首脳は昨年7月の共同宣言で、ウクライナへの長期的な安全保障協力を約束した。具体的な支援内容は各国が2国間協議で決めるとされ、これまでに米国を除くG7各国などが合意文書を交わしているので、G7前に岸田政権として横並びにしようという考えが見え隠れする。そこで岸田総理は外交的特典をあげ国内の支持率UPにつなげたいことであろう。
しかしながら、「もしトラ」誕生でどうなるのか、米国がウクライナ支援を打ち切った場合どうするのか?ロシアとの関係改善は全く放棄するのか?それ以上に、我が国の防衛は崩壊するのではないか、三正面脅威への対処は米国なしでは無力であるが、「もしトラ」誕生ではしごをはずされることはないのかー。日本の長期戦略が必要である。